知財実務研究

「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考えるー補足

 平成29年(ワ)第22041号の差止等請求事件(平成30年10月19日判決言渡、東京地方裁判所)について、発明の把握の観点から、今一つの検討を進めます。

 問題の特許発明「洗濯用ネット」のメインクレーム(請求項1)の構成要件は、次のように分説することができます。

 この中で、争点となったのは、構成要件A~Fのうち、丸印で示すB,C,D,Eです。なお、各構成要件中、アンダーラインの部分は、審査段階で補正により付加された構成です。

 クレームに新たな構成を付加するには、付加すべき内容が当初明細書等に記載されていること、しかもまた、付加するための理由があること、が一般的です。それらを考慮しつつ、争点のいくつかを振り返ってみましょう。

 第1に、構成要件Bにおける「(拡大把持体が)逆台形状のリング形状を有し」の点です。当初明細書の中には「把持部は逆台形状のリング状で示したが、摘まみ易いことであれば、その形状に限定されることはない。」との言及があります(段落番号0024)。拡大把持体にとって、『摘まみ易いこと』が最も大事なことのようです。その要求は、形状だけでなく、材質の面などからも応えることができます。とすれば、たとえば、『(引き手との関係から)引き手よりも摘まみ易い構成(たとえば、滑りにくい、あるいはリング状、好ましくは逆台形状のリング状)という理解が生まれるのではないでしょうか。イ号製品における拡大把持部(体)は楕円形状のリングですので、「引き手よりも摘まみ易い」という捉え方は、イ号製品を押さえる上で問題はないようです。別の表現「(逆台形状を取り除いた)リング状」では、前回に挙げた実公平6‐37718号のものを押さえることができません。

 第2に、構成要件C,D,Eは、スライダを含むスライダ構成体と、それを覆い隠すカバー体とを特定しています。審査過程および裁判に関する資料を見る限り、スライダ構成体を全体的に被うカバー体はあっても、スライダ構成体を部分的に被うカバー体を見ることができないと、考えます。その点、弾性止め部材によって、引き手およびスライダ(ー)を固定する技術(登録実用新案3061802号)が問題となります。その技術について、担当審査官は、「開口部の閉口端に、スライダと引き手とで構成されるスライダ構成体の一部を露出させて弾圧的に覆うカバー体を設ける技術」との理解をしています。しかし、小生は、その技術は、『カバー体によってスライダ構成体を部分的に被うという考え方』を何ら示していない、と考えます。その考え方に基づいて、今回の「洗濯用ネット」における構成要件C,D,Eについて、『カバー体によってスライダ構成体を部分的に被う』という内容のみで発明を把握することができると思います。とすれば、カバー体に対し、スライダ構成体の一部を確かに露出するイ号製品は、その捉え方による構成要件を充足します。

 今回の「洗濯用ネット」の発明について、ネックとなる点は、カバー体がスライダ構成体をいかに露出させるか、に対する考え方ではないでしょうか。ある人は、カバー体の構成を限定することを考えるでしょう。たとえば、スライダ構成体が入り込む一端だけでなく、反対側の閉じ端にも開き窓(開口)を設け、閉じ端の開口を利用して、スライダ構成体を開く側に押し出すようにするという考え方です。その点、スライダ構成体を撹拌/洗濯エネルギーから保護することを考え、カバー体による保護形態をいかにするか、悩むと思います。それこそ、特許性、発明の実質を考慮しつつ、発明者と一緒に考えるべき弁理士の役割りだと信じます。

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