知財実務研究

「洗濯用ネット」を通して発明の把握を考える

 平成29年(ワ)第22041号の差止等請求事件(平成30年10月19日判決言渡、東京地方裁判所)における特許は、発明の名称を「洗濯用ネット」という特許第3523141号です。この小論の第1の目的は、「洗濯用ネット」を通して、発明の把握を模索することにあります。

 判決文の中から、その特許のメインクレーム(請求項1)と基本的な図(図4)を引用します。引用したものに、ブルー、レッド、グリーンの色付けをしていますが、それは説明をしやすくするためです。

 洗濯用ネットは、洗濯に際して用いる身近な網状の入れ物です。それには、洗濯物を出し入れするための開口部(6)があり、その開口部(6)をスライドファスナ―で開閉することができます。スライドファスナ―は、スライダー(3、ブルー)と引き手を備えます。

 スライドファスナーの開閉のためには、それらスライダーと引き手のみで充分なところ、この発明は、引き手に対し、それより大きく摘みやすい拡大把持体(1、レッド)を備えています。ここで、この拡大把持体(1)が「この発明」に必要であるかは定かではありませんが、引き手を補助する「拡大把持体」に関する発明の一例を示します。

【拡大把持体、というよりも、引き手の補助をする部材の発明の一例】

 この図は、実公平6-37718号公報の第1図からの引用です。引(き)手を補助する部材である摘み(16)は、柔軟性と弾力性に富む軟質合成ゴムまたは軟質合成樹脂等からなり、指が滑らずにスライダーを確実にスライドさせます。したがって、摘み(16)は、金属製の引(き)手とは別の材料によって滑り防止の面からスライダーの作動を補助しています。すなわち、「拡大把持体」の基本は、スライダーの作動をしやすくする点にあり、“拡大”や“材料”はあくまで一つの条件にすぎません。したがって、発明を把握する観点からすれば、一般的には、「拡大把持体」というよりも、『引き手に付属し、引き手を持ちやすくするための部材』として把握する方が妥当です。そして、それ以上に、”拡大“などの特定の条件を加えるとすれば、”拡大“の意味を発明全体の中に浸透させることが肝心だと思います。

 さて、「洗濯用ネット」においては、洗濯物入りの洗濯用ネットを洗濯槽の中に入れ、回転などの撹拌/洗濯エネルギーを加えるとき、「拡大把持体」付きの引き手が暴れ、洗濯物や洗濯槽を傷めるおそれがあります。そのようなおそれをなくすため、「拡大把持体」付きの引き手が暴れないように、何らかの方法で固定することが求められます。そのような求めに応じる発明のいくつかの例を示します。

【暴れ防止のための発明例1】

 図は、実公昭52-49891号公報の第1図および第2図からの引用であり、ホックボタン(3)を利用し、ファスナー(1)やスライダーなどの部分をネット袋(A)内に閉じ込めるという考え方です。

【暴れ防止のための発明例2】

 図は、実公平3-6306号公報の第4図からの引用であり、先行例として、ファスナーの閉じ端部にカバー(C)を設け、その中にスライダーや引き手など(B)を収容するという考え方です。

【暴れ防止のための発明例3】

 図は、登録新案第3061802号公報の図1からの引用であり、弾性止め部材(30)によって、引き手(19)およびスライダー(20)を固定するという考え方です。

 これらの発明1~3を把握する際、ある人は、発明1および2について、スライダーや引き手などを全体的にカバーする考え方であると捉えるのに対し、残りの発明3については、スライダーや引き手などを部分的にカバーする考え方である、と捉えます。

 そのような全体的にカバー/部分的にカバーという捉え方の観点から見ると、最初に述べた「洗濯用ネット」の発明は、後者の部分的なカバーの発明になると思われます。なぜなら、カバー体は、スライダー構成体を10~50%露出という限定があるからです。この「洗濯用ネット」の発明について、その露出について、どのような捉え方をするかが一番の問題のようです。小論として、長くなりすぎたきらいがありますので、今回はここで筆をおきます。今までの言及が、発明を把握あるいは限定要件を考える際の参考になることを希望します。

 さらにいうならば、発明の把握には、関連する先行技術の検討は勿論のこと、発明全体との関係を考慮した検討が大事であることを再考していただければうれしいです。

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