知財実務研究

「ステーキの提供システム」の発明から学ぶ-その3

 ここでは、第3段階の特許取消決定取消請求事件(平成29年(行ケ)第10232号、平成30年10月17日判決言渡)の判決文、特には、「第5 当裁判所の判断」の項について検討します。

 「ステーキの提供システム」に係る特許は、その2で述べたとおり、特許法第29条第1項柱書の規定に違反することから、取り消されるべきものである、との特許異議の決定でした。維持決定に対しては、不服を申し立てることができませんが(特許法第114条第5項)、取消決定に対しては訴えを提起することができ、その管轄は東京高等裁判所の専属管轄になっています(特許法第178条第1項)。

 この専属管轄について、いわゆる青本は、「特許庁での審判手続が裁判に類似した準司法的手続によって厳正に行われる以上、さらに三審級(地方裁判所から最高裁判所まで)を重ねることはいたずらに事件の解決を遅延せしめるという事情と、事件の内容がきわめて専門技術的であるため、特許関係の専門家に行われた審判手続を尊重してよいという事情とによって、一審級を省略して直接に東京高等裁判所へ出訴することとしたものである。」と述べています。なお、ここにおける事件は、東京高等裁判所ではなく、知的財産高等裁判所から判決がでています。知的財産高等裁判所は、平成17年の法律に基づいて設置された、東京高等裁判所の特別な支部(知的財産関係を取り扱う専門的な部分)です。

 さて、特別の支部である知的財産高等裁判所における、この事件の判決文は38ページにわたります。知的財産高等裁判所の設置前に比べて、判決文は、一般的に長文化の傾向があります。長文化の一因は、特許公報の明細書などのそのままの引用にあります。今回の事件の場合、判決文中、「第5 当裁判所の判断」の項が22~38ページにわたるのに対し、22~29ページがそのままの引用になっています。したがって、裁判所の判断の実質は10ページほどにすぎません。明細書を作成する者として(明細書にも長文化の傾向があります)、裁判所の判決文にもう少し工夫が欲しい、と思うことがあります。

 そのような判決文を何度も読み返したところ、裁判所は、(複数ステップを含む)「本件ステーキ提供方法は、ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手順を示したもの」と認定する一方、本件計量機等について、「札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができ」、「計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる際に、他のテーブル番号(他のお客様)と混同が生じることが抑制され」、そして、『「札」にテーブル番号を記載して、テーブル番号の情報を結合することには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。』とし、結果的に、「ステーキの提供システム」の発明は、全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する、としています。

 しかし、このような裁判所の判断は、実際の請求項に記載されていない事項を考慮して判断しているのではないか、という疑問があり、いわゆるリパーゼ判決、あるいは特許法第70条の規定に反するのではないか、と考えます。その点、具体的に述べましょう。

・「札」に関して、請求項は、「お客様を案内したテーブル番号が記載された札」と限定するだけです。「札」とは、辞書によれば、「文字や記号などが書き記すための、あるいは書き記した木片、紙片、金属片など」を意味します。この「札」は、通常、どこかに取り付けたりして使用、あるいは持ち運び可能な形態で使用したりするものです。「ステーキの提供システム」の発明の場合、他のお客様の肉との混同を防止するため、「札」はお客様を案内したテーブルと、肉をカットする個所との間を行き来することが必要です。

 請求項には、「札」について「持ち運び可能」か否かの言及がないにもかかわらず、裁判所は、「札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができるから」、「計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる」など、「札が持ち運び可能」であることを前提にしたことを述べています。

・また、請求項には、「焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップ」との記載があります。この記載からすれば、運ぶ主体はお客様ではなく、お店の担当者だと理解されます。他のお客様の肉との混同を避けるためには、肉をカットする段階のステップだけでなく、カットした肉を焼くステップ、さらには、焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップにおいても混同防止が図られることが必要です。これに応じるためには、判決文にあるように、『お客様の肉やオーダー票に固定することにより』という条件が必要です。

 しかし、請求項には、そのような条件について何も記載されていません。それにもかかわらず、裁判所は、「お客様の肉やオーダー票に固定することにより、他のお客様のための印しと混じることを防止することができるから、シールを他のお客様の肉との混同防止のための印しとすることには、他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。」と述べています。

 異議における決定の取消を求める事件であり、裁判所は、決定の取り消しを求める原告(特許権者)と、被告(特許庁長官)の各主張を充分に検討して、最終的な「決定を取り消す」という判断をなした、と思います。したがって、その裁判所の判断には、原告、被告の各主張が投影しているはずです。第1段階から第3段階にわたる検討の結果、代理人としての業務を行う上で、今まで以上に、研鑽にはげめ、という大きなエールをいただきました。

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