知財実務研究

「ステーキの提供システム」の発明から学ぶ-その2

 ここでは、第2段階の異議申立て(異議2016‐701090号)のやり取りを検討します。

 J-PlatPat上の異議の決定、経過情報を参照する限り、異議の申立てにおける申立て理由および審理内容は、特許法第29条第1項の柱書に関する事項のみである、と理解されます。その第29条第1項柱書に規定する要件は、その1で述べたとおり、審査段階で問題となったものです。すなわち、担当審査官の審査を経た内容です。

 (特許)異議申立ての本来的な意義は、特許庁が自ら特許処分の適否を審理し、瑕疵ある場合にはその是正を図ることにより、特許に対する信頼を高めるという公益的な目的を達成することを主眼とした制度です(いわゆる青本からの抜粋)。その点からすると、審査官が問題とした特許法第29条第1項柱書の規定違反があるかを見直すことは基本的に妥当です。しかし、今回の発明「ステーキの提供システム」については、発明の把握自体に問題があるため、その面からの見直しも必要ではないでしょうか。また、利害関係がある場合などには、追加的な調査に基づく、(審査では上がらなかった)新たな異議理由も問題にすべきです。したがって、異議2016‐701090号事件は、審査官が問題とした異議理由(拒絶理由)のみについて見直すだけであり、充分に制度が活用されていない感を覚えます。

 異議申立ての後、新たな3人の審判官は、特許発明「ステーキの提供システム」には、特許法第29条第1項柱書の規定違反があるとの見解を示し、それに基づいて、取消理由通知を発しました。それに対し、被請求人(特許権者)は、【請求項1】の訂正の請求をしました。訂正請求した【請求項1】は次のとおりです(J-PlatPatの異議の決定から引用)。

 この訂正後の請求項1の「ステーキの提供システム」に対し、異議決定では、「お客様を立食形式のテーブルに案内し、お客様が要望する量のステーキを提供するというステーキの提供方法を採用することにより、お客様に、好みの量のステーキを、安価に提供するという飲食店における店舗運営方法、つまり経済活動それ自体に向けられたもの」であり、「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」という物を、その構成とするものと、まずは理解しています。しかし、請求項1における、それらの「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」のそれぞれは、物としてのそれぞれの本来の機能を果たし、単に道具として用いられるだけである、と判断し、その結果、「ステーキの提供システム」は、その本質が、経済活動それ自体に向けられたものであり、全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない、と結論付けています。すなわち、「ステーキの提供システム」に係る特許は、特許法第29条第1項柱書の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2項に該当し、取り消されるべきものである、との決定です。

 このような異議決定の言及からすると、担当審判官は、「ステーキの提供システム」は、「札」、「計量機」、「印し」、及び「シール」という物を、その構成として含み、特定の店舗運営方法を実施するためのもの、つまり、物の発明として理解されているようです。しかし、請求項や明細書を熟読する限り、「ステーキの提供システム」は、特定の経済活動を実施するための方法であり、その方法を実施する上で、次のような点に特徴をもつ方法、と理解することが妥当ではないでしょうか。
a 番号が記載された札によって、お客様を案内したテーブルを特定すること
b 計量機によって、お客様の要望に応じてカットした肉を計量すること
c 肉の量とテーブル番号を記載したシールを用い、そのシールを他のお客様の肉と区別するための印しとすること

 これらabcの各特徴事項は、お客様の要望による量の肉を除いて、すべて商慣習上、周知の内容だと思います。したがって、「ステーキの提供システム」を、あたかも物の発明として把握し、その発明が特許法第29条第1項柱書における発明該当性を充足しない、という議論自体、発明の把握という前提に大きな誤りがある、と考えます。

 訂正後の発明については、発明該当性以外の問題、たとえば、請求項の記載(特許法第36条第6項)や、容易想到性(特許法第29条第2項)など、まだ充分に審査されていないという問題も残されています。この異議事件の検討、そして、異議決定を読むことにより、知財の世界に生きる人間として、いらだちを覚えざるをえません。

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