「ステーキの提供システム」は、今話題の発明の一つです。その発明は、特願2014‐115682号として特許出願され、特許庁の審査では特許第5946491号として特許が認められ(第1段階)、その後、その特許は、異議2016‐701090号において取り消され(第2段階)、さらに、その特許取消決定は、知財高裁における平成29年(行ケ)第10232号の取消決定請求事件で決定が取り消されました(第3段階)。
この「ステーキの提供システム」の発明における注目論点は、その発明が特許法第29条第1項柱書に規定する要件を充足するか否かです。その規定における要件は、いわゆる発明該当性と、産業上の利用可能性とを含みます。それらの中で、「ステーキの提供システム」では、発明の該当性、つまり、「ステーキの提供システム」が特許法上の発明に該当するか否かが問題です。ですから、この発明を検討することは、発明とは何かを考える上で有用だと思います。そしてまた、特許審査の第1段階、異議申立てについての審理の第2段階、知財高裁における取消決定請求での判断の第3段階があり、見方の異なる人たちによる考え方を検討することもできます。
この「その1」では、特許庁における特許審査の第1段階を振り返り検討してみたいと思います。
まず、出願当初のクレームを見てみましょう。特願2014‐115682号の出願公開公報2015-228949号の【請求項1】は、次のとおりです。
出願当初は、「ステーキの提供方法」としての発明であり、5つのステップを含んでいます。各ステップの中味は、お店の店員さんの仕事内容そのものです。「伺ったステーキの量を…カットする」、これ自体は、あるいは従来見られないサービス内容かも知れません。しかし、それを含め、5つのステップのすべてが一般的なサービス業務そのもののようです。これを読む限り、特許を受けるべき発明には該当しないことが分かります。なにゆえに、このようなクレームを作成したのでしょうか。いわゆるチャレンジングクレームとは違うようであり、小生には理解しがたいところです。
出願審査請求後、最初の拒絶理由通知書において、「特許法第29条第1項柱書に規定する要件」、発明該当性の点でキズがあるとの指摘がなされました。担当審査官は、「(クレームに記載のステップは)ステーキを提供する手順という人為的取り決めを示すものであり、自然法則を利用しているものではない。」とし、発明に該当しない、との見解です。この指摘は、上に述べたとおり、妥当といわざるをえません。これを打破するためには、発明該当性に適うような補正が必要と思われます。
出願人が行った補正は、次のとおりです(J-PlatPatによる審査書類情報照会からの抜粋です)。
発明の名称が、5つのステップを実施するための『ステーキの提供システム』となり、特許を受けるための事項として、『札』、『計量機』、『印し』が加わりました。それらの札、計量機、印し自体は、この種のサービス業界において一般的なものです。それが特定の「ステーキの提供システム」において、どのように関わるのか、が問題です。しかし、『札』、『計量機』、『印し』に対する修飾文を見る限り、「ステーキの提供システム」との関わりが今一歩定かとは思えません。
ここで、特許実務家として考えるテーマを見出します。それは、「提供方法」という方法発明と、「提供システム」というシステム発明との違いの点です。システム発明について考える上で有効な資料は大変少なく、小生が知る限り、数点です。
その第1は、特許審査基準における、第Ⅱ部、第2章、第3節の明確性要件の中の、「方式」又は「システム」(例:電話方式)は、「物」のカテゴリーを意味する用語として扱う」という記載です。また第2は、平成15年(行ケ)第325号審決取消請求事件の中での裁判所の次のような言及です。
審査基準では、システム発明は「物」の発明として扱っているが、裁判所は、発明に関するクレームや明細書等の記載を精査することによって、発明内容を判断すべきである、といっています。「ステーキの提供システム」の発明の場合、クレームや明細書等の記載を考慮する限り、あくまで「提供方法」の発明として理解されます。
その点、特許庁の審査においては、出願人による補正に伴なって、「ステーキの提供システム」は、「この出願については、拒絶の理由を発見しないから、特許査定をします。」という判断があっさりとなされました。小生にとっては、発明の理解の仕方、審査の正確さの点で疑問が残るのみです。
The author

Latest post
- 2021.01.13特許実務クレームの全記載事項がSTFになりうるか?
- 2020.12.24特許実務知財専門家の実務力を考える
- 2020.11.30その他独占禁止法と知的財産法
- 2020.10.25気になる審判決例スキンケア技術のある発明