段書きの商標とは、複数段にわたって表記した商標です。たとえば、平仮名、片仮名、漢字、ローマ字などの互いに異なる表示によって複数段の構成にした商標です。
クライエントによっては、同じ称呼の商標を複数の出願にせずに、段書きにすることにより一つの出願にすることを望むことがあります。段書きの商標を考えるとき、商標法第50条における「社会通念上同一の商標」や、パリ条約第5条C(2)における「構成部分に変更を加えてその商標を使用する場合」が参考になります。また、段書きにおける商標と段書きでない商標との商標権的な効力についても、考えることになるでしょう。
ここでは、平成22年(行ケ)10336号、不使用による商標登録取消し審判の審決取消請求事件を基に、少し検討したいと思います。不使用取消しの対象となった商標は、登録第4906932号の次のような3段書きの商標です。
すなわち、アルファベットによる表記と、片仮名による表記と、ハングル文字による表記との3段書きです。そして、権利者側が使用の根拠とした商標は、片仮名表記からなる「ユジャロン」(つまり、1段書きのもの)と、アルファベット表記による「YUJARON」と片仮名表記による「ユジャロン」との2段書きのものです。それらのいずれの表記の商標にも、ハングル文字による表記は含まれていません。
裁判所は、「商標として使用されたと認められる前記各使用標章からは、「ユジャロン」の称呼が生じることが明らかであるし、本件商標のアルファベット部分又は片仮名部分の一方又は双方と同一の文字列をその構成部分としているものであるから、前記各使用標章と本件商標とは社会通念上同一の商標であると評価することができる。なお、ハングル文字の部分については図形として評価するよりも文字として評価するのが相当であるから、前記各使用標章と本件商標の外観の相違は、上記評価を左右するものではない。」との判断です。
以上の裁判例を考慮する限り、クライエントから3段書きの表記形態の商標の出願を依頼されたとき、そのままの形態での出願をしたとしても、商標の使用上、当面問題はなさそうです。しかし、商標の機能の発展的な増強、商標権の効力などを考えるとき、3段書きを積極的にすすめることに躊躇することを感じることはありませんか。今一度、関連の規定の本来の意味を再考し、自己の考え方を確認したいところです。
The author

Latest post
- 2021.01.13特許実務クレームの全記載事項がSTFになりうるか?
- 2020.12.24特許実務知財専門家の実務力を考える
- 2020.11.30その他独占禁止法と知的財産法
- 2020.10.25気になる審判決例スキンケア技術のある発明