知財実務研究

進歩性の難しさに打ち勝つ

 明日27日は、「企業関係者と弁理士の知財研究会」の第1回の集りの日です。パテントおよびパテント別冊の中の進歩性関連の論文を輪読し、参加者同士が意見交換をし、交流を図ろうとする会です。小生は、弁護士の仲間とともに進行役を仰せつかっているため、進歩性について考える機会を作りました。

 進歩性あるいは容易想到性に関する条文は、特許法第29条です。その第1項には、「…次に掲げる発明を除き、・・・」として、1号:公然知られた発明、2号:公然実施をされた発明、3号:刊行物に記載された発明(又は電気通信回線を通じて利用可能となった発明)が明示されています。したがって、特許を受けようとする発明が、これらの各号のいずれか一つに該当する場合には、新規性がない、と判断されます。言い換えると、新規性は、一つの証拠、たとえば、一つの刊行物に記載された発明が問題となります。

 それに対し、特許法第29条第2項では、「前項各号に掲げる発明に基づいて」と規定しています。この規定の意味は、進歩性では、複数の証拠、たとえば2以上の刊行物に記載された発明が問題となります。すなわち、特許を受けようとする発明が、それら2以上の刊行物に全体として記載されているかが問題となります。

 以上の考え方からすれば、一つの刊行物に記載されているか、複数の刊行物に記載されているかの違いはありますが、新規性も進歩性も発明が記載されているかの観点から同様な判断をすることができます。この考え方は、長年の実務経験の結果、得られたものであり、進歩性の有無について、新規性の有無と同様、客観的な判断をすることができます。

 この経験に基づく考え方を有効に実行するためには、発明の把握を的確に行うことです。次に示すように、過去の小生の小論も間接的にそれを物語っています。

・「進歩性の判断上、引用例の技術分野その他に検討すべき課題があることは事実である。しかし、その一方で、正確な判断を行う前提である、“ちがい”の把握が正確に行われていないことも事実である。しかも、後者の割合が非常に高い。

 したがって、進歩性の“難しさ”に打ち勝つ最も現実的で有効な方法は、“ちがい”の把握を正確に行えるようにすることにあるといえるだろう。出願人サイドに対しては、発明の内容を正確にとらえ、しかも特許要件を備えていることを容易に判断できるような、わかりやすい明細書がより一層に求められるべきであり、また、特許庁サイドに対しては、スムーズなコミュニケーションを可能とする、わかりやすい拒絶理由の通知などがさらに一層求められるべきである。それらが、結果的に審査の促進、そして、より強い発明の保護を生み出すことになるであろう。」(「進歩性の判断の難しさはどこにあるか」パテントVol.44、No.7)

・「繰り返しになるが、「進歩性も(新規性と同様に)広義の新しさである」、これが筆者の主張である。この主張は、長年の実務経験からの贈り物である。

 発明の新規性は、その発明が一つの刊行物に記載されているかの問題である。それに対し、発明の進歩性は、その発明が全体として複数の刊行物に記載されているかの問題である。進歩性と新規性との各判断の難しさはそれほど変わるわけではない。

 一番の難しさは、クレームの記載であり、そこに緻密で明確な発明を明らかにする難しさである。クレームに緻密で明確な発明が記載されているなら、(関連する刊行物の正確な理解を必要とするものの)、進歩性(新規性と同様)について客観的な判断が可能である。クレームを作成する私たち弁理士は、そのことを肝に銘じ、クレーム(および明細書)の作成をより一層大事にしたいものである。」(「発明の進歩性についての再考」パテントVol.63、No.6)

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