知財実務研究

「ニューマター」に思う

 「ニューマター」(new matter)とは、新規事項であり、特許実務家が考えるべき重要なテーマの一つです。

 先日、欧州におけるクレームや補正の実務と日本国におけるそれ(それら)について比較検討する研修がありました。その中で、補正の関係で、欧州出願では、「図面にのみ基づいた補正はしない」というアドバイスがありました。
 そこで、今回、「ニューマター」の本来的な意味を再考しつつ、補正を考えてみたいと思います。というのは、通常、特許の手続きの段階でクレームの補正は必至であるからです。
 「ニューマター」に関連する条文あるいは規定、基準などを見る限り、日本国でも欧州でも基本的には同様である、と考えます。それを示す基本的な規定が、次のように同様であるからです。

【日本国】
・特許法第17条の2、第3項の抜粋
 明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をするときは、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない。

【欧州】
・Article 123
Amendments
(2)  The European patent application or European patent may not be amended in such a way that it contains subject-matter which extends beyond the content of the application as filed.

 これらの規定上、明細書と図面とは同列に記載されています。したがって、原則として、明細書の記載に基づく補正ができるように、図面に記載されたことに基づく補正もできるという理解が生まれます。しかし、ソルダーレジスト事件(知財高判平成20年5月30日、平成18年(行ケ)10563号)の合議判決がいうように、『明細書又は図面に記載した事項』とは、技術的思想の高度の創作である発明について、特許権による独占を得る前提として、第三者に対して開示されるものであるから、ここでいう『事項』とは明細書又は図面によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提となります。その点、表現手段が文章である明細書と、視覚的な表現手段である図面との間には、発明に関する技術的事項を表現する上でかなり違いがあることでしょう。技術的考え方の内容を示す事項について、図面は、明細書に比べて表現しにくい手段だからです。

 したがって、前記した「欧州出願では、図面にのみ基づいた補正はしない」というアドバイスは、その限りでは妥当です。しかし、見方を変えて、明細書と同列にある図面の記載を工夫し、発明に関する技術的事項をより適切に表現する手法を取り入れることもできるのではないでしょうか。図面の記載内容に基づく補正、特にはクレーム補正が認められることは少ないことは事実です。

 私たち実務家は、同じ規定の下でも時代により、あるいは判断主体の考え方により、取扱いが変化することを知っています。代表的には、進歩性あるいは容易想到性の取り扱い方が大きく揺らいできました。「ニューマター」も同様です。

 特許法第17条の2の規定が導入された当初においては、直接的な記載がなければ、補正が認められないほどの厳しさがありました。いわば、「記載した事項」について、「字句通りの解釈」がなされていたのです。その点、裁判所は、「内容勘案」の解釈手法、あるいは「行間を読む」解釈手法を取り入れ、特許庁における判断とは別の考え方を取り入れていました。

 この点に関連し、小生がレポートした委員会報告(「ニューマター関連の裁判例から学ぶ」、パテント2003、Vol.56、No.1)があります。その中の記述の中に、次の言及があります。『(4)ニューマターの判断が「事項」についてのものとすれば、「字句通り」の解釈手法は当然に誤りです。そのような基本的な誤りに気づかず、あるいは考える基本を忘れて個々の具体的な事例についての「字句通りの解釈」の是非を議論していたことを反省しなければいけません。特許のような専門分野は、特殊であるが故に、誤った考え方を時に一般的あるいは当然のものであるという錯覚を生じがちです。何が基本であるか、その基本自体を把握することは困難ですが、「基本を考えること」を肝に銘じたいものです。』

 「図面にのみ基づいた補正をしない」あるいは「図面に基づく補正は許されないだろう」ということも、今ある揺らぎであり、将来的には適正化されることではないか、という考え方もあります。

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