知財実務研究

ゴルフ用ボールマーカー意匠の要部

 意匠の要部とは、一般的に、その意匠を見(看)るものに対し「注意を引く部分」あるいは「重きを置かれる部分」といわれます。 
「ゴルフ用ボールマーカー事件」における登録意匠1217691号についても、意匠の要部の観点から検討がなされています。権利者は、マーカー本体のドーム形状が要部である、と主張しました。
しかし、ボールマーカーにおけるドーム形状は、出願前から公知であったことから、権利者の主張は認められず、結果的に、単に、ディンプルの大きさ及び配置の態様が要部と認められることになりました。この事件における裁判所の考え方は、周知意匠や公知意匠に示されている部分は、取引者、需要者にとってありふれて見えるものとなり、注意を引かないし、重きが置かれない、という点にあると思います。なお、その考え方とは異なり、意匠において周知又は公知の部分も、看者の注意を引く要部となりうるという裁判例もあります(たとえば、東京高裁平成14年11月14日判決、平成14(行ケ)221号審決取消請求事件)。

 ここでは、意匠の要部における二つの考え方は、全く別の見方のようではありますが、意匠の観点からは密接した考え方である、という捉え方もできることを述べます。そのことが、適切な意匠権の取得、および適切な権利行使を考える上でのヒントになりうると考えるからです。ボールマーカーにおけるドーム形状は、それ単独で存在するわけではありません。ドーム形状は、その表面に付されるディンプルと大いに関係があります。その点は、ゴルフボールとその表面のディンプルとの関係と同様です。球形のボールの形状が特定のディンプルを生み出すという観点からすれば、ボールが周知の球形だからといって、そのボール形状とディンプルとを切り離して議論すること自体、おかしなことになります。同様の考え方から、公知のドーム形状と、その表面のディンプルとは全体として一体として捉える方が意匠に沿っているのではないでしょうか。

 下記のボールマーカー意匠について、ある創作者は、ゴルフボールの一部を切り取ったマーカー本体、という発想を抱くことでしょう。もし、この創作が事実とは異なり、全く斬新な考え方だとしたら、知財専門家のあなたは、クライアントに対し、どのような保護を求めることをアドバイスしますか?一つには、ドーム形状という特定の形状と、ボールマーカーの機能の点から、技術的な利点を見出し、特許あるいは実用新案の保護を求めることでしょう。その場合、もちろん、意匠の保護を求めることを同時に求めるべきでしょう。

 特許(実用新案)の権利取得において、私たち知財専門家が「広いクレーム」を求めることはごく一般的です。その点、小生は、意匠の保護を求める場合でも同様である、と考えています。なぜなら、意匠権の効力は、登録意匠及びこれに類似する意匠にも及ぶからです。登録意匠が何であるかにより、類似する意匠の範囲も変化するからです。ボールマーカー意匠の場合、特許の見方から、無模様のドーム形状の意匠を保護すべき意匠と考える人もいることでしょう。また、ドーム形状の特徴とマッチングしたディンプルあるいは模様などを生み出すのではないでしょうか。

 上の図は、登録意匠1217691号公報からの抜粋した図を一部加工しています。

 意匠には、保護の観点からすると、未開の部分があるのではないか、と思わざるを得ません。意匠の難しさ?、意匠の楽しさ?、意匠の問題? を考えていただくために、ゴルフボールの権利を7つほど示します。これらは、すべて権利者が異なることから、一応、互いに類似しない(つまり、非類似)と判断されたケースです。あなたは、類似しないという根拠をどこに見出しますか?

関連記事

  1. 段書きの商標
  2. 商標登録出願の分割要件の強化
PAGE TOP