知財実務研究

ゴルフ用ボールマーカー事件に学ぶ

 「ゴルフ用ボールマーカ―事件」とは、登録意匠1217691号に基づく謝罪広告等請求事件です(原審:東京地裁平成18年10月30日判決、平成18年(ワ)第13406号、控訴審:東京高裁平成19年3月27日判決、平成18年(ネ)第10084号)。

 その登録意匠は、グリーン上のゴルフボールの位置を示すボールマーカーです。登録意匠の図面中、主要な図面は、次のとおりです(ディンプルの部分を色付けてあります)。

 権利者の言によれば、「ボールマーカーをドーム形状としたことは、画期的なこと」だということです。この登録意匠は、そのようなドーム形状のマーカー本体に、大中小の3種類のディンプルをきれいに配列しています。
 対するイ号のボールマーカーは、マーカー本体がドーム形状であることは共通していますが、ディンプルは1種類の比較的に大きなものが配列されているだけです。

 ここで、意匠の類否が問題となります。類否判断の場合、意匠の要部を捉える考え方があります。この点、控訴審の中の裁判官の言及として、「意匠の類否判断に当たっては、意匠全体の観察を要するものの、意匠に係る物品の各部位における構成に対する判断の比重がすべて等しいというわけではなく、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美観を共通にするか否かを判断すべきものである。そして、この場合に、意匠の要部は、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様等を考慮するほか、その意匠の各部が公然知られた意匠に係るものと同一の意匠に係る部位であるか、新規な創作の意匠に係る部位であるか等を斟酌して、認定すべきものである。」があります。

 権利者が主張する『画期的なドーム形状』は、要部となりうる可能性があります。『画期的なドーム形状』が、ディンプルの配列の違いを打ち消してしまうと判断されることもあるでしょう。その点から、意匠においても、各構成部分あるいは各構成要素の外観的な新しさの有無を確認することも、知財専門家の義務と考えることもできます。

 結果的に、ボールマーカ―におけるドーム形状は、出願前から公知であったようです。その資料を次に記します。

 マーカー本体2がドーム形状であり、その本体2に比較的に小さなディンプルが配列された技術がすでに知られていたようです。

 この事実から、ドーム形状は要部とは判断されず、しかもまた、ディンプルを複数配置する構成自体も、登録意匠の要部とは認められず、単に、ディンプルの大きさ及び配置の態様が要部と認められることになりました。したがって、イ号のボールマーカ―は、登録意匠に類似しないと判断されました。

 控訴審の判決文の中に、気になる言及があります。「当該特定の部分の意匠に係る構成が要部たり得るかどうかは、当該美観を生起させる構成であるという点にのみを考慮して判断すれば足りるものであって、技術的な効果を考慮の対象として含める必要はない。」との言及です。
これに関連し、別の裁判例(大阪地裁平成25年2月28日判決、平成23年(ワ)第11104号、特許権侵害差止等請求事件)における判決文の言及、『面一となって美観が向上することは当該構成自体から自明の作用効果であることから、本件発明を容易想到でないと認めるべき特別の作用効果があるということもできない。』が気にかかります。

 以上を考慮しつつ、新しい創作について、意匠、発明(考案)の少なくとも両方向から保護を求めるとき、心ある知財専門家は、いくつかの大事なことを考え及ぶに違いない、と小生は確信します。少なくとも、判決文が言う内容を自分なりに、さらにかみ砕いて理解すべきです。なぜなら、私たち知財専門家が裁判官に技術を正しく理解していただくことが困難のように、裁判官の言及を私たち知財専門家が正しく理解することは困難であるからです。

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