知財実務研究

施工面敷設ブロック事件から学ぶ

 「施工面敷設ブロック事件」とは、特許第1997204号(特公平7-1121)に基づく侵害差止請求事件です(原審:東京地裁平成17年7月7日判決、平成16年(ワ)第7716号、控訴審:知財高裁平成17年12月28日判決、平成17年(ネ)第10103号)。
 その特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりです(カッコを付けて、符号を入れてあります)。
 【請求項1】 ネット(1)の経糸又は緯糸(1a)にブロック(2)の敷設面に設けた引留具(3)を通し掛けにして多数のブロック(2)をネット(1)に結合し、該ネット(1)を以って施工面に敷設する構成としたことを特徴とする施工面敷設ブロック。

 併せて、特許第1997204号の第1図、第3図を示します。

 この発明は、傾斜面などに、ブロック2を配置する手法として、ネット1および引留具3を利用する考え方であり、ブロック2を容易に敷設するための技術です。一番の争点は、「ブロック」にイ号の『自然石』が含まれるかという点です。
 原審の地裁および控訴審の知財高裁は、本件明細書の中に「ブロック」に自然石を含むとの記載がないことなどの理由から、「ブロック」は人口素材による成形品を意味し、自然石を含まないとしています。
 この点、この種の敷設工事において、敷設材料としてのコンクリートブロックを用いる例と、自然石を用いる例とがいずれも公知であったことです。したがって、クレームを作成する立場からすれば、この発明の「ブロック」がコンクリートブロック(人口素材)と自然石(自然素材)との両方を含むのか、そうでないかを明らかにすべきである、と考えます。実際の明細書の中には、「ブロック」として、セメントと砂の混錬物を主体としたもの、金属精錬によって発生するスラッジや製紙スラッジ等を固形化したもの、タイルやレンガブロック、木質製又は合成樹脂製ブロックを挙げています。いわば、成形によるものと解釈される例示です。
 振り返って考えるに、この発明の一番の特徴は、弾力性あるいは良馴性のあるネット1を活用した施工技術にある、と理解されます。そのネット1と敷設素材(ブロック)2との接点が、引留具3になります。ここで、敷設素材(ブロック)2として、公知のコンクリートブロックのほか、自然石を入れて考えるかが問題です。発明を把握するとき、把握する人は、第1に、両方を含ませることを考えることでしょう。なぜなら、それだけ技術的範囲が広がるからです。そして、把握する人は、特許性(主には、容易想到性)に難点があるなら、ブロックに対し、引留具を支持しやすい成形という限定を加えることもあります。いずれにしろ、発明を把握する人は、少なくともブロックの範囲を明らかにする責任があるのではないでしょうか。

 これに関連する言及として、特許クレームに思うこと‐その1で紹介した「リパーゼ判決の再考」の小論の注14を記します。
 (14)「ブロック」に自然石が含まれることを、誰にも納得させるような手立てを考えてみたい。用語を明確化する方法であり、「ブロック」という表現を自然石を含む表現にすること、あるいは例示する敷設材料の中に「自然石」を含めておくこと、である。敷設に用いる材料の表現として、「施工面に敷設する側が、他の部分に比べて密着しやすい面構造をもつ敷設材料」ということができる。そうすれば、「コンクリートブロック」は勿論のこと、自然石であっても「敷設側が比較的に平らな自然石」(天然の自然石を選択したもの、あるいは自然石のうち敷設側を平らに加工したもの)もを含めることができる。
 これに関連し、イ号である自然石利用の長野物件あるいは岩手物件を見ると、自然石といっても「敷設側が比較的に平らな自然石」であることが気になる。「ネットの良馴性で施工面に密着施工(特許明細書の段落番号0007の記載内容)という考え方が全く新しいとしたなら、判決とは逆の判断が生まれる余地があったのではないだろうか。そのような点からも、クレームおよびそれを支持する明細書の記載の大切さが心に思い染む。

関連記事

  1. KSR判決の再考-おわりに
  2. KSR判決の再考-非自明性(進歩性)の規定
  3. 「ステーキの提供システム」の発明から学ぶ-その1
  4. 脇下汗吸収パッド事件に学ぶ‐付録
  5. 商標権の禁止権
  6. KSR判決の再考-問題のクレーム4の発明/非自明性の争点
  7. KSR判決の再考-はじめに
  8. KSR判決の再考-関連する第1の特許文献(Asano特許)
PAGE TOP