知財実務研究

特許クレームに思うこと-その1

 特許実務家にとって、クレームの作成は最大の難関であり、と同時に、喜びを得る格好の場でないでしょうか。クレーム作成に関する二大条文は、特許法第36条第5項と特許法第70条(第1項、第2項)です。特許実務家の多くが同じ答えをすると思います。また、クレームといえば、リパーゼ判決を連想する人も多いのではないでしょうか。小生も同様であり、かつて「リパーゼ判決の再考」というテーマで小論(内容的には、特許実務家から見たリパーゼ判決)をまとめたことがあります(パテント2007 Vol.60 No.5)。

 二大条文を順次見てみましょう。

・特許法第36条第5項:第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。この場合において、一の請求項に係る発明と他の請求項に係る発明とが同一である記載となることを妨げない。

 この規定は、平成6年の改正によるものであり、従前の請求項の概念「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項」を一変させています。これについて、いわゆる青本は、(イ)特許出願人が自らの判断で特許を受けることによって保護を求めようとする発明について記載するのであり、(ロ)そこに記載した事項は、特許出願人自らが「発明を特定するために必要と認める事項のすべて」と判断した事項であることが明確になる、と述べています。改正により、クレーム記載の制約をゆるめ、特許を受けるべき発明の記載をより適切にすることを狙っています。

 しかし、改正後の特許業界を考慮する限り、この改正は、特許法第1条における「発明の保護」と「発明の利用」中、「発明の保護」に偏り、保護と利用とのバランスを欠くことになっている、と考えます。改正する側において、あまりに大きな「制約のゆるめ」を懸念し、別の特許法36条第6項第二号に「特許を受けようとする発明が明確であること」という防波堤を築いています。この防波堤は、特許法第36条第5項の基本的な壁をあふれた水を防ぐための機能をもつにすぎません。そのために、改正後に特許事務家になったほとんどの人が、クレームの記載の重大性を改正前ほどには認識せずに、本来のクレームではなく、特許クレームに似たクレームを書くことになるという事態を生じています。たとえて言うなれば、真剣で対応すべきクレームに対し、真剣ではない竹刀や木刀で対応する傾向が出ているのです。このクレーム作成の影響が、審査官や裁判官にまで影響を与えていることをも感知します。このような特許の専門家の変化が、特許制度に悪い影響を与え、制度の信頼性を低下させることを危惧します。

 真の特許事務家、あるいは知財専門家である者は、特許クレームの真の意味および意義を考え、少なくとも、特許制度の信頼性を向上させるようなクレーム作成を心掛けるべきではないでしょうか。信頼性は、クレーム作成者ではなく、世の中の関係者が感じるものです。

 次は、特許法第70条に基づいて、特許クレームを考える予定です。

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