知財実務研究

KSR判決の再考-おわりに

 KSR判決を検討することによって、いくつかの教訓を得ることができました。それらの教訓の二三を記し、再考の筆をおきたいと思います。

【第1の教訓】

 USP第6,237,565号特許成立までのUSPTOにおける引用文献は、航空技術に関係する二件のUSPのみであり、内容的にも少し離れた技術のようです。そこには、裁判における第1引用文献であるAsano特許は、何ら取り上げられていません。この現実をまず直視しなければなりません。最も関連する引用文献の抜けという事態は、しばしば経験することです。このことは、特許実務の一番の死角です。その死角は、発明の捉え方が十分でないことに起因していると思います。
 Asano特許の技術内容を顧みるとき、その技術は、いくつかのレバーを含み、機構的に少し複雑です。そのため、その技術内容の中に、第1の考え方、ペダルの回転支点(ピボット)を不変としつつ、ドライバの身長の違いに応じるよう、ペダルの前後位置を適正に調整する考え方、を見出すことは難しかったのかもしれません。また、裁判における第2の引用文献であるRixson特許は、’565号特許の明細書中に明示されています。その点からすると、なぜ審査で考慮されなかったのか、疑問です。

以上の事情から、私たち弁理士は、常日頃、発明の把握の実務力を自ら向上させるという努力を惜しまないようにしたいものです。

【第2の教訓】

 地裁、最高裁が’565号特許発明の非自明性を否定しているのに対し、CAFCは非自明性を肯定しています。CAFCの肯定の論拠として、’565号特許における解決課題が引用文献に見出されないことを挙げています。その解決課題とは、先に挙げた第3の考え方、ペダルアームが所定のピボット回りに回転する形態により、二種類の技術を組み合わせた際の技術的な問題を避けるという考え方(別に言うと、よりシンプル、より小さな、より安価な電気的あるいは電子的な制御装置の提供)です。
 しかし、’565号特許発明のクレームには、その第3の考え方に直接関係する技術的事項を見出すことができない、と考えます。
 CAFCは、’565号特許のそのような解決課題に関連し、Rixson特許におけるワイヤ破損の問題に言及しています。この言及は、’565号特許のクレームに明確な限定があってこそ意味をなすものです。
 「ワイヤ破損の問題」は、Rixson特許(発明)が、ガイドロッド10に沿って前後動可能なキャリアアセンブリ12に対して、ペダル16が回転可能に支持されているからこそ生じます。そのような問題を避けるとすれば、’565号特許発明は、ペダル14がガイドロッド62に沿って前後動可能であり、そのペダル14を含むペダルアセンブリ22がサポート18に対して回転可能に支持されている、という限定をもって理解されるべきです。そのような限定がクレームに記載がない以上、CAFCの論拠は破綻している、と考えます。

 この第2の教訓もまた、特許を受けるべき発明の把握と、その把握に基づく技術事項の特定の大切さを私たち弁理士に教えます。

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