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KSR判決の再考-問題のUSP

 KSR判決で問題となったのは、USP第6,237,565号特許、あるいはEngelgau特許のクレーム4です。
そのクレーム4は、次のとおりです(・は、分かりやすくするために、小生が付けました。)。

 4. A vehicle control pedal apparatus (12) comprising:
 ・a support (18) adapted to be mounted to a vehicle structure (20);
 ・an adjustable pedal assembly (22) having a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18);
 ・a pivot (24) for pivotally supporting said adjustable pedal assembly (22) with respect to said support (18) and defining a pivot axis (26); and
 ・an electronic control (28) attached to said support (18) for controlling a vehicle system;
 ・said apparatus (12) characterized by said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32) that corresponds to pedal arm position as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24).

 まずは、このクレームを読むことにより感じることを素直に記します。その後に、明細書や図面の記載をも参照しながら、そのクレームの本意を読み取るようにしたいと思います。

 “A vehicle control pedal apparatus (12)”、つまり、車両制御ペダル装置(12)ということから、アクセルペダルやブレーキペダルに関係する技術なのか、と思います。その点、クレームには、“an electronic control (28)”(電子制御(ユニット)(28))という言及があり、その制御ユニット(28)が“for controlling a vehicle system”(車両システムの制御のための)であることが分かります。車両システムですから、アクセルもブレーキなどを含むことになります。また、車両制御ペダル装置(12)とあるように、各構成要素に対し、図の符号が伴っています。クレームに図の符号を入れるべきでない、という教えに疑問が出ます。

 車両制御ペダル装置(12)は、“an adjustable pedal assembly (22)”、つまり、可調整ペダルアセンブリを含みます。“adjustable”(可調整)が何を意味するかが疑問です。後に続く、“a pedal arm (14) moveable in force and aft directions with respect to said support (18)”(車両側のサポート(18)に対して前後に可動なペダルアーム(14))の点から、“adjustable”(可調整)が出ているのか、あるいはその他の何かから出ているのかという疑問があります。なお、“in force and aft”は、– in fore and aft — の入力ミスと思われます。クレームの後半部分に’in fore and aft’という表現があることからも明らかです。

 “said apparatus (12) characterized by”で始まる最後の記載部分に、装置(12)の特徴が表れています。“said electronic control (28) being responsive to said pivot (24) for providing a signal (32)”(電子制御ユニット(28)は、ピボット(24)に応答し信号(32)を発生する)という特徴です。“a signal (32) that corresponds to pedal arm position”ですから、信号(32)は、ペダルアームの位置に対応する信号です。しかも、as said pedal arm (14) pivots about said pivot axis (26) between rest and applied positions wherein the position of said pivot (24) remains constant while said pedal arm (14) moves in fore and aft directions with respect to said pivot (24)ですから、ペダルアーム(14)はピボット軸(26)回りに動きますが、そのピボット(24)の位置は、ペダルアーム(14)がピボット(24)に関して前後に動く間、不変です。

 次に、明細書や図面の記載を参照しながら、クレームの文意解釈上の疑問点を検討してみます。

 第1の疑問、“an electronic control (28)”(電子制御(ユニット)(28))の制御対象が何か、についてです。明細書の中には、“an electronic control (28)”として’an electronic throttle control mechanism 28’が示されているだけです。スロットル制御への言及だけであり、ブレーキなどの他のシステムに対しての言及も示唆もありません。

 第2に、クレームの記載だけからは、発明の意図を読み取ることができません。その点、BACKGROUND OF THE INVENTION(発明の背景)を読むことにより、発明をさらに具体的に知ることができます。

 発明の背景を見ると、二種類の背景技術が記されています。一つは、ドライバの身長の大小に応じて、ペダルアーム位置を前後方向に適正に調整する考え方(USP第5,460,061号や5,632,183号)です。もう一つは、機械的なリンク機構に代わる、電子的なスロットル制御技術(USP第5,819,593号)です。

 発明の背景は、それら二つの技術を組み合わせた際の技術的な問題点について言及しています。すなわち、二つの技術を組み合わせると、部品が多いこと、ペダルアセンブリが複雑であることなどから、装置が高価になり、組み立てが大変になるし、包装スペースが過大になる、という問題を示しています。そして、それらの問題を解決することを今回の発明の目的にしています。

 以上を総合すると、クレーム4から把握される発明は、次の複数の考え方を含むと、理解することが妥当のようです。

その1 ペダルの回転支点(ピボット)を不変としつつ、ドライバの身長の違いに応じるよう、ペダルの前後位置を適正に調整するという考え方

その2 調整に対して位置を不変としたペダルの回転支点(ピボット)回りのペダルの回転に応じて、スロットル調節を行うという考え方

その3 ペダルアームが所定のピボット回りに回転する形態により、二種類の技術を組み合わせた際の技術的な問題を避けるという考え方

 ここで、その3の考え方が、その1、その2における特定のピボットの域を超えたものをもたないのではないか、という疑念をもたざるをえません。

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